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全固体電池開発の現状

 地球温暖化対策の観点から、エネルギー源として化石燃料を使うのは 避けるべきであるとの見解は世界的に認識されつつある。

 自動車業界では電気自動車が注目され、リチウムイオン電池を燃料源とする動きが活発化している。ガソリン車に比べると、価格や性能面 (走行距離や充電時間)において未だ不十分な点があるが、何と言っても 環境に優しい乗り物としては画期的である。

 自動車用リチウムイオン電池は、最新の”日産リーフ”車の場合、正極 材料としてニッケル、マンガン、コバルトの三元系の層状構造材*¹ を、 負極材料は不明であるが特殊カーボンを、そして電解液は有機溶媒を使用 していると推定される。*²

*1:日産自動車株式会社HP
https://www.nissan-global.com/JP/TECHNOLOGY/OVERVIEW/li_ion_ev.html
*2:パナソニック社HP
https://industrial.panasonic.com/cdbs/www-data/pdf/ACA4000/ACA4000PJ3.pdf

 現状のリチウムイオン電池は、有機溶媒を有するのが必須条件であって、そのため安全性や性能限界、あるいは電池構造の肥大化や過重化といった 問題を抱えている。

 この問題を解決するには、有機溶媒を使わない、”全固体電池”を開発する必要があるとされる。すなわち、電池構造が全てセラミック系となる必要があるとの見解である。*³

*3:「全固体電池最前線~究極の蓄電デバイスを求める東工大研究者たちの道のり」
    DG Lab Haus 2019年2月20日
    https://media.dglab.com/2019/02/19-battery-01/

全固体電池研究の流れ

 全固体電池を開発するには、大きな課題が2つある。*⁴
①室温で、リチウムイオン電池の電解液並みの高いイオン伝導率を示す固体電解質を開発すること。
②電極と固体電解質との界面の抵抗を低減すること。

*4:「実用化に近い次世代蓄電池”全固体電池”」
    サイテック・コミュニケーションズ 山田久美
    化学と工業│Vol.70-9 September 2017
    http://m-dimension.tohoku.ac.jp/wp-content/uploads/2018/03/
    fe860425ac03aa555078da54ff2e910c.pdf

 ①の課題については、リチウムイオン電池に使われている電解液のイオン伝導率は、10-2S/cm(S;ジーメンス)程度で、なおかつ、これはリチウムイオンと電池動作に関与しない陰イオンを合算した値なのだ。
 固体電解質ならば、移動するのはリチウムイオンのみなので、リチウムイオン電池と同等の出力性能を実現するには、その電解液よりも低い 10-3S/cmのイオン伝導率を示す固体電解質を開発できればよいことになる。

 1980 年代から1990 年代には、目標とするイオン伝導率を示す硫化物と 酸化物が発見され始めた。これは、当時、松下電器産業社で、約30年間にわたり固体電解質の研究開発に取り組んできた現・物質材料研究機構エネルギー環境材料研究拠点副拠点長・高田和典氏や,1992 年から高田氏と共同研究を進めてきた大阪府立大学大学院工学研究科の辰巳砂昌弘教授らの功績によるところが 大きい。

 辰巳砂教授は、”メカノケミストリー”*⁵ に基づく製造方法により、10-3S/cm
というイオン伝導率を示すガラス系硫化物をつくっている。

*5;固体物質に摩砕、摩擦延伸、圧縮などの機械的エネルギーを加えることによって引きおこされる相転移や構造、反応性、吸着性、触媒活性などの変化をいう。その1 つの方法として,辰巳砂教授はボールミル処理を採用した。

 一方、結晶系硫化物でイオン伝導率の高い物質を探索していたのが,無機結晶の “超イオン伝導体”⁶ を30年以上にわたり研究してきた東京工業大学物質理工学院の 菅野了次教授である。菅野教授は”固相反応法”によって、様々な組成の結晶 づくりを試す中、2000年に、10-3S/cmのイオン伝導率を示す結晶系硫化物 “thio-LISICON(チオリシコン)”(資料4の図4参照)を見い出した。さらに2011年には、電解液に匹敵する1.2×10-2S/cmのイオン伝導率をもつ
“Li 10 GeP 2 S 12 “(以下、LGPS)を開発した。

*6;見かけは固体であるにもかかわらず,その中をイオンが高速で移動し,溶融塩や電解質溶液と同程度のイオン伝導率を示す物質の総称。

 しかし、これらの硫化物を使って全固体電池をつくってみたところ、どれも十分な出力性能が得られなかった。その要因は,解決すべき課題②に挙げたように、電極と固体電解質との界面で高い抵抗が発生していたからだ。全固体電池で高い出力性能を実現するには、固体電解質内だけでなく、電極と固体電解質との界面でも高いイオン伝導率を実現しなければならないのだ。

 そこで、辰巳砂教授はガラス系硫化物をベースにした研究で、電極に固体電解質の粒子を添加し加圧焼結することにより、固体電解質を緻密化する方法や、電極活物質粒子の表面に固体電解質をコーティングする方法などを編み出した。
 それに対して、高田氏は、正極と固体電解質の間に、硫化物よりもリチウムイオンを束縛する力が強いチタン酸リチウムの薄膜を”緩衝層”として挿入する方法を考え出した。その結果、全固体電池の出力密度は2桁も向上し、既存のリチウムイオン電池を上回った。

リチウムイオン電池の3倍以上の出力性能を実現

 2016年3月に世界中が注目する大きな進展があった。NEDO の助成事業として全固体電池の研究開発を進めていた菅野教授とトヨタ自動車の加藤祐樹氏の研究グループが、従来の2倍という世界最高のリチウムイオン伝導率を示す超イオン伝導体を発見し、さらにそれを使って全固体電池を開発したところ、リチウム
イオン電池の3倍以上の出力密度が得られたと発表した。この発表を機に、日欧米を中心に世界各国で全固体電池の研究開発競争が激化している。

 この2種類の超イオン伝導体を、J-PARC にある材料構造解析装置iMATERIAで
調べた結果が、資料*4の図5に示されているので参照されたい。イオンの経路が
3次元に広がっているのが明示されている。その経路をリチウムイオンがびっしりと埋め尽くしているので、高いイオン伝導率を示すのだ。

 ここで菅野氏と加藤氏が発見した2種類はいずれも結晶系硫化物で、
“Li 9.54 Si 1.74 P 1.44 S 11.7 Cl 0.3″(LSPSCl)と”Li 9.6 P 3 S 12”
(LPS)だ。前者は、2011 年に菅野教授が開発したLGPS に対して、高価なゲルマニウムに代わる元素を探索する中で見つけたもので、さらに微量の塩素を加えることで、27℃で、2.5×10-2S・cm-1という極めて高いイオン伝導率を示した。一方、後者は,リチウム金属を負極に使っても安定に作動する電解質を探索していた時に見いだした超イオン伝導体で、広い電位窓*⁷をもつのが特徴だ。

*7; 電極反応において、溶媒や電解質の分解などの影響を受けずに安定して電位を走査できる範囲のこと。

 そこで、菅野教授らはこれらの超イオン伝導体を固体電解質に用いて全固体電池を作製した。すると、リチウムイオン電池 よりも室温で3倍以上の出力密度をもつことや、-30℃から100℃までの広い温度範囲で優れた充放電特性をもつことが確認できた。また、室温や高温で1000サイクルに及ぶ充放電を行っても性能の劣化がなく、十分な耐久性があることも分かった(資料*4の図6参照)。

更なる進展を

 とはいえ、硫化物固体電解質には、水蒸気を含んだ空気に触れると有毒の硫化水素が発生することがあるため、乾燥した空気中で扱わなければならないという問題がある。(資料*4末尾箇所から引用)

 そこで、現在、JSTの”戦略的創造研究推進事業先端的低炭素化技術開発(ALCA)”における”特別重点技術領域次世代蓄電池(ALCA-SPRING)”の全固体電池チームでは、辰巳砂教授をチームリーダーに、高田氏をサブチームリーダーに据え、硫化物型全固体電池とともに、酸化物型全固体電池の研究開発も進めている。

 酸化物固体電解質の課題は,電極内および電極との界面で高いイオン伝導率を
示す物質が見つかっていないことだ。とくに酸化物は硫化物とは異なり硬いため、電極との界面で十分な接触面積を取れず、界面での抵抗が上がってしまう。
「しかし、酸化物で成形性に優れた固体電解質が実現できれば、他の次世代蓄電池も含めて、究極の蓄電池が完成することになる」と辰巳砂教授は語る。
全固体電池の開発は日進月歩である。1日も早い実用化に期待したい。

 そうした中、鈴木氏は今(2019年2月現在)どのような課題に取り組み、研究を進めているのか?(資料*3末尾箇所から引用)
・ひとつは、全固体電池の体積が大きく膨張したり収縮したりする課題を解決すること。
・もうひとつは、AIを活用した、酸化物系リチウムイオン導電体の探索法の開発。
 つまり、全固体電池に使って高い効果を上げる物質の探索だという。いわゆるMI(マテリアルズ・インフォマティクス:機械学習を応用した材料探索)だ。「酸化物の全固体電池に役立つ材料を機械学習で見つけたいと思っている」

                            以上